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石原内科

リハビリテーション科

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健康だより 【バックナンバー】

インスリン注射が簡単になった。でも・・・・・

やはり治療の基本は今も、食事・運動なのです

  • インスリン注射というと、「痛い」という間違った印象をお持ちの方も多いかと思います。確かに、昔は針も今より随分太く痛かったようです(残念ながら私は当時のことをよく知りません? 確かツベルクリン用針だった?)。でも今はほんの少しチクッとする程度で、ほとんど痛みがありません。
インスリン注射のイラスト
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  • インスリン注射というと、注射してから30分経たないと食事が食べられないと思われている方も多いかと思います。実際、インスリン注射液の種類によってはその通りです。しかし、今は注射してすぐ効き始める超速効型のインスリンも広く使われるようになってきました。食事の直前に打てばいいのです。
  • インスリン注射というと、「面倒だ」と思われているかとも多いかと思います。今ではそんなことありません。専用の注射器具に針を付け、単位数を合わし、あとはお腹に針を刺すだけでおしまいです。
  • インスリン注射により、血糖コントロールが改善し合併症の発症の予防が可能となります。また、短期間のインスリン注射によりご自身の膵臓からのインスリン分泌が回復し、もとの飲み薬のみの治療に戻ることが可能となることもあります。

このようにインスリン注射の利点はいっぱいあります。 というわけで、当院でも飲み薬でコントロール困難な方にはインスリン注射をお薦めしています。

しかし、盲点もあります。

それは、食事・運動療法がおろそかなままインスリン注射を続けると体重がジワジワッと増えていくことです。 それまで、血糖値が高くコントロールの良くない状態が長く続くと体重減少がみられ、これは摂取したカロリーの一部が尿糖としてどんどん尿に出て失われてしまうからです。インスリン注射を開始すると当然血糖値は下がります。これはインスリンの働きにより血液のなかのブドウ糖が他へ移動されるからです。ブドウ糖はどこへ行くのでしょうか? 実は筋肉、肝臓、脂肪組織などに運び出され、そこで利用され蓄積されます。

荒っぽい言い方をすると、コントロールが悪いときにどんどん尿糖となって身体の外に漏れて出ていたカロリーが、注射にて尿糖陰性となると体外への逃げ道がなくなり、何とか内部処理しないといけなくなります。というわけで、主に脂肪となって蓄積されます。日頃生活に例えると、これまで不要ゴミとして尿に出していたブドウ糖を再利用に備えて納戸にどんどん押し込んでいるようなものです。もともと運動不足や食べ過ぎが続き仕方なくインスリン注射開始となった場合、相も変わらず悪しき生活習慣のままでは余分なカロリーが次から次に脂肪に変わり体重が増加してしまいます。さらに、脂肪はインスリンの働きを悪くするためにその結果として必要なインスリン注射量が増え、ますます脂肪がたまり、一層インスリン量が増えるという悪循環が生じます。

最近、インスリン注射が簡単になり血糖のコントロールはしやすくなりました。 これまでインスリン注射の作用に合わせて食事量や補食を考えていたのが、今は食事に合わせて超速効型インスリンを一寸追加、ということも行われるようになっています。このように短期的には目標とする血糖コントロールの達成が容易となりました。しかし、これは必ずしもいいことではありません。当然、摂取カロリー増となってしまうからです。平成15年度の小児糖尿病慢性疾患のデータによりますと、新規に1型糖尿病と登録された時にはやせている子供が多かったのが、インスリン治療開始後、経過とともに標準体重より20%多い肥満児が14.2%を占めるようになります。

図 小児慢性特定疾患事業
平成15年度登録1型糖尿病患者の肥満度の分布
平成15年度登録1型糖尿病患者の肥満度の分布のグラフ

このように、一昔前まで痩せ型の糖尿病といわれていた1型の小児糖尿病において、今では肥満児が多くなってしまっています。これは大人の糖尿病でも同じことが言えます。食事・運動をおろそかにしてHbA1cをよくしようとインスリン量が増えてしまうと体重がジワジワッと増えてしまいます。これでは先程述べたような悪循環になってしまいます。

糖尿病の治療の基本は、今も変わらず食事・運動なのです。

食事療法・薬物療法・運動療法のイラスト
食事のイラスト
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